■■■カメラマン大橋弘一情報 (2004年12月2日)■■■

ラムサール条約に登録したい湿地・オホーツク湖沼群

〜「私たちの自然」((財)日本鳥類保護連盟発行)2004年12月号 に掲載

ラムサール条約に登録したい湿地

オホーツク湖沼群

大橋弘一 

 北海道のオホーツク海沿いにはいくつもの湖があり、シギ・チドリ類やガン・カモ類、サギ類など多くの水鳥たちの貴重な生息地になっています。日本で3番目に大きな湖サロマ湖がその代表ですが、紋別市から網走市までの約120kmの海岸線沿いに連続的にあるいくつもの湖沼(コムケ湖、シブノツナイ湖、サロマ湖、能取湖、網走湖、藻琴湖、涛沸湖など)をここでは「オホーツク湖沼群」と呼び、その重要性を考えてみます。       

■湖沼群の成り立ちと特徴

 オホーツク海沿岸は、直線的な海岸線に沿って砂州が発達し、その内陸側に大小の海跡湖(ラグーン)や湿地帯がいくつも見られることが特徴です。その形成についてわが国最大の海跡湖であるサロマ湖を例に取ると、更新世(200万年前〜1万年前)の時代に海の中にできたいくつかの段丘が、完新世(1万年前〜)になって砂州で結ばれ海と隔てられてサロマ湖が誕生したと言われています。「オホーツク湖沼群」はこうしてできたいくつもの海跡湖のことなのです。

 これらの湖はいずれも汽水湖で、海とつながっているため干満の影響を受けて干潟が出る場所があること、また水深が浅い(平均1~8m)ため藻類などが茂り豊かな生物相が育まれていることなどの共通点があり、水鳥たちの採食場として優れています。さらに、日本列島と北方海域との境界に位置する地理的観点を考え合わせると、このオホーツク湖沼群が渡り鳥の寄留地としていかに重要な場所であるかがお分かりいただけるでしょう。秋には北から渡って来る多くの旅鳥や冬鳥が最初に日本に降り立つ場所となり、逆に春は、繁殖地へ向かう鳥たちが日本列島を離れる最後に立ち寄り栄養補給をする基地になっているのです。 
             
■シギ・チドリ類にとって

 オホーツク湖沼群の中でもコムケ湖・能取湖・涛沸湖は、シギ・チドリ類の生息地として道内では有数の場所です。中でも、大きな干潟が発達したコムケ湖は北海道最大のシギ・チドリ類観察地と言っても過言ではなく、干潟環境の少ない北海道において大変貴重な場所です。能取湖も卯原内の干潟を中心に、涛沸湖は湖の西側の干潟部分や丸万川河口付近などに、多くのシギ・チドリ類が見られます。これらの場所で翼を休めるシギ・チドリ類は毎年30種以上にも及び、中には世界的希少種であるヘラシギや日本で記録の少ないオジロトウネン、サルハマシギなども含まれています。

 サロマ湖もキムアネップ岬などがシギ類の有力な観察ポイントです。カキやホタテなど貝類の漁場として有名なサロマ湖をはじめとするオホーツク湖沼群は多くの底生生物をも育み、それらを食べるシギ・チドリ類にとってなくてはならない環境が備わっているのです。             

 9月、特徴ある湿性植物アッケシソウが赤く色づく中で見るシギ類の姿は、この地ならではの風情が感じられる素晴らしい情景でもあります。     

■ガン・カモ類やその他の鳥にとって

 オホーツク湖沼群はまた、ガン・カモ・ハクチョウ類などにとっても優れた生息地です。ガン類では国の天然記念物ヒシクイ、そしてオカヨシガモ・シマアジなどを含む多数の淡水ガモ類、海ガモ類やアイサ類、さらにカイツブリ類などが春秋の渡りの時期にオホーツク湖沼群を利用しており、その一部はここで越冬もします。涛沸湖などはオオハクチョウの越冬地として有名で、流氷と並んで冬のオホーツク海になくてはならない観光資源にもなっています。

 また、魚や水鳥をねらうオジロワシやオオワシなども多いことや、アオサギをはじめとするサギ類の有数の繁殖地・採食地であることも見逃せません。湖周辺には湿地・草原さらに森林も含めた多様な環境がそろっているため多くの野鳥が生息できるのです。涛沸湖周辺ではこれまでに230種を超える野鳥が記録されています。                

■この環境を守っていくために

 このようにオホーツク湖沼群は野鳥生息地として大変重要な場所だと考えられますが、いつまでもこの環境が保てるとは限りません。この地域はおもに漁業や酪農業といった第一次産業によって人々の生活が支えられています。第一次産業の生産活動は、時に野生生物の生息に直接ダメージを与える場合があります。例えば1970年代には多くの自然草原が牧草地化され、そのためにシマアオジなど草原性の野鳥が繁殖地を奪われ激減しました。また、干潟環境が開発により全国的に減っているように、オホーツク湖沼群も開発行為によっていつ環境が改変されてしまうかわかりません。地域住民がラムサール条約登録を期待する目立った動きは今のところ見られないようですが、地元の人々こそ優れた自然環境を守っていくための共通認識を持つことが必要でしょう。

 サロマ湖はホタテの漁獲高は日本一ですが、その陰には湖周辺の植林活動があったそうです。豊かな森を人が作り、それが豊かな海を育むという、自然と人との「いい関係」がここにあるわけです。人間の基本的な生産活動である第一次産業と豊かな自然環境とは、本来、共存できるものです。自然をよく知り、いい形で守ってこそそれが可能だということを皆が自覚したいものだと思います。            

「私たちの自然」2004年12月号